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「もうそういうの飽きたんだ」

当たり前そうにそう言う彼を、私は誤魔化すことしか出来なかった

 
いつものようにおでこにはキスしてくれたけれど
いつものことが嘘みたいに私に触れようとしない

 
おでこだけじゃ満足できないのに
そのうちきっと、会話さえもしてくれなくなる
彼は飽きやすい人だって分かってた
だから、ずっと怖れていた時間だった

 

貸していたお金を急に返すと言われたり、
浮気はダメだとか彼氏と結婚しなさいと何度も言われたり、
『迷惑ですか?』と夜に送ったメールの返事は来なかった

 
ねぇ私たち昨日、──したよね?

なのに、次の日から急に飽きたなんて

 

「女の人は男の人より触れることで感じやすいから」
と、電車の中で彼は言っていた。
それはつまり、彼はもうこれ以上私を誤解させたくないのだろう

都会の男の人であるあなたは
古めかしく重たい私に、もう関わりたくないのだろう

 

ベッドに入った途端、涙が止まらなかった。
もう彼とのあの至極幸せな日々が、もう手に入らないことを考えたらこれから先が怖かった。

彼のことがすごくすごく好きである自分に改めて気付かされた

 
あいつのことも好きだよ。好きで愛してる。
だけど彼のことは純粋な“好き”だった。
そして、それだけの違いだった。

たとえ彼が言う好きが、おはようと同じくらいの重さでも、
私の好きはそれよりずっとずっと重かった。

 

ずっと憧れてた
背中を見てるだけで幸せだった。

 
だけど今はおでこにキスされても満足出来ない自分がいて、涙が止まらない

憧れなんかじゃなくて、本気で好きだった。
あいつの重さとは比べられないにしても
自分にとっては大切な感情だった

彼が好きなあの娘にはなれなくても
彼の唇をすり抜けるくすぐったい言葉の
たとえすべてが嘘であっても
それで良かった
それだけで幸せだった

 
せめて春が訪れるまでは
触れられていたかった。

 
でもその前に飽きられちゃった。

 
だったらキスなんかしなければよかった

 

 
これからも彼と話せるのかな
まだ隣を歩いていられるのかな
それとももう目も合わせてくれないのかな

 
怖いよ

 

でもね、彼が飽きても俺は飽きてないから
俺からするのは良いですかって電車で聞いたら、ちょっと驚いてたけどいいって
あんなに嫌がってたのにお前はツンデレか、とも言われたけれど

 

もしまた彼が一緒に食べてくれたら、ちょっとだけ抱き締めよう
「予備校なくなったら音信不通になるかもね」と彼は何度か言って笑ってた
どうせもう、時間はないんだ。

 

だから、やるしかないんだ。
愛している人との日々を手に入れるまでは。
大好きな彼との日々を

 
ずるい子だよね。わるい子だよね。知ってる。
でも、やめる気はない。だって私は他人より貪欲だから
それが私が生きる方法だから

 
ごめんね。
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