月

月は夜の深い闇を明るく照らす。
電灯もなかった昔、夜を歩く旅人や船乗りにとって月は重宝されていた。

今、街中はネオンの輝きでいっぱいだ。
それでも、僕はあえて月を見る。

何百年も、何千年も、ひょっとしたら何億年も前から白く輝く
きれいな月。

でも月は、
見えないところにたくさんの傷を持っているのだと僕が知ったのは、つい最近だった。

それを知る前までてっきり僕は、
月のあのきれいさは宇宙共通だと思っていた。

長い間たくさんの傷を隠しそのきれいな姿を、この地球だけに見せる月。

地球だけを見つめて踊る、月。



今の僕は、月に傷をあることを知らなかった頃みたいだ。

誰もが皆、傷を隠してまで輝いていることを知らなかったあの頃。


傷はあるはずなんだ、誰だって。
それに気付かず僕はまた、新たな傷を付ける。
そしてまた、傷を隠して輝く。
僕はその輝きに魅了され、でも結局また傷つけている。

僕が傷つけても、隠してまた光る君。


僕はその傷に気付かない、気付けない。

君を傷つけていることを、僕は知らなかった。


無知は悪いことではないとは言うが、この場合は悪い。
僕は気付かなきゃいけなかったのだ。

僕しかその光を守れないのに、
僕の為だけに輝いてくれる君を、僕は守らなきゃいけないのに。

でも僕は結局また、傷付ける。


月と地球は引き合う。万有引力という名において。
月は地球の為だけに今日も踊る。


どうか、君が隠した傷の分だけ、
僕を傷つけて下さい。


誰も見えない所に。